text&photo by kyosuke yamauchi(Minamisanriku)
 




南三陸町中心部、かつてそこには地元女性に親しまれる唯一の化粧品店があった。残念ながらそのお店はあの日、津波で流され今はもうなくなってしまった。佐藤由紀さんは、そこで働く従業員だった。地元の高校を卒業後、すぐに化粧品店へ就職。津波で被災するまで26年もの間、販売員として働いた。そして被災後、彼女に転機が訪れる。お店を経営していた夫妻は高齢も重なり、店舗を再開することはなかった。「あなたがやればいいじゃない」職を求めハローワークに通う中、顔見知りのお客様から聞こえてきた再開を願う声。化粧品の販売には専門の知識が伴う。専門店でしか販売できない商品への知識と経験もあった。ただ自信が全くなかった。顧客からの渇望とは裏腹に様々な葛藤が頭をよぎる。唯一、生まれ育った町に女性のためのお店がなくなってしまうことが気がかりだった。そして震災から1年が経った2012年2月、退職金を注ぎ込み、この町唯一の化粧品専門店「おしゃれ空間 Lips」が誕生した。最後に彼女の心を突き動かしたのは、生き残ったという事実だった。「本当は自分で起業するなんて、今でも心から大変な事だらけ。でもせっかく助かった命だから何か自分にできることをやらないと。化粧品は買わなくても、この場所にゆっくり座ってお話するだけでもいい。そんな場所を作りたい。そう思ったんです。」開店当初、このお店で再開したお客様も少なくなかったという。自然光が差し込む空間は、佐藤さんらしい朗らかで優しい雰囲気が漂っている。開店後は休みもなく、子育ても主婦業も思う様にはならない。母に助けられてばかりだと語る。それでも一度起業した道、そう簡単には諦められない。そこには笑顔があり、人と人が触れ合う空間がある。化粧品ならどこでも手に入る現代、ただ物を販売し購入する場所はいらない。傷ついた町だからこそ、人のぬくもりや繋がりが笑顔と元気に変わる。開店から丸三年がたった今でも、女性ひとりが起業し進む道は険しい。だがやはり、小さい事はすばらしい。より身近に心と笑顔で寄り添えるのだから。  






①「おしゃれ空間 Lips」を経営する佐藤由紀さん。
②自然光が差し込む明るい店内はやさしい雰囲気。ゆっくりとくつろぎながら肌の相談にも応えてくれる。
③フェイシャルエステ専用空間も完備。フルコースは3500円。その他部分集中コースも選べる。
④肌の状態をチェックできるスキンビジオムも完備。無料で診断してくれる。
⑤お店のある「南三陸さんさん商店街」。仮設店舗が約30店舗軒を連ねる被災地最大面積の仮設商店街。

おしゃれ空間 Lips
10:00-19:00(不定休)
www.sansan-minamisanriku.com/shop-list/lips/