07 大塚国際美術館 学芸部次長兼企画・広報担当 浅井 美誉子さん

転職でたどりついた 大好きな仕事

大塚国際美術館 学芸部次長兼企画・広報担当
浅井 智誉子(あさい ちよこ)さん

「ダ・ヴィンチ・コードツアー」「怖い絵ツアー」「テルマエ・ロマエツアー」など、斬新な企画で人気の作品鑑賞ツアーを
次々生み出している大塚国際美術館の浅井智誉子さん。
話題のマンガや映画の要素を柔軟に取り入れ、従来の美術館とはひと味もふた味も違う角度から、アートを楽しむ方法を多くの人に伝えている。
今回のソライロインタビューは、そんな名プランナーの素顔に迫ってみました。
異色の美術館ツアーを大ヒットさせた仕掛人

じつは私は中途入社の職員なんですよ。入社したのは、2003年、35才の時です。それまでは名古屋でシステムエンジニアとして働いたり、小さい旅行代理店に勤めたり、派遣社員として大手予備校の事務をしたり。いろんな仕事をしてきました。でも、派遣の仕事を長く続けるのは難しいでしょう。勤務先が倒産するという経験もしてきましたから「これからどうしよう」と思案していました。そんな時に徳島に住んでいた友人から、「大塚国際美術館で英語を話せるスタッフを探しているらしい」と聞いたので、応募することにしたんです。私は岐阜出身で、職場も名古屋市内ばかりで過ごしてきました。徳島には、友人を訪ねて1度来たことがあるくらい。でも、大学が関西外国語大学の英語専攻でしたから、ずっと、英語が使える仕事がしたいと思っていたこともあり、試験を受けることにしたんです。

いつも「どういうふうにしたら面白いのか」と考えてます。

大塚国際美術館では、海外からいらっしゃるお客さまに、当館をご案内する業務を担当しています。ほかにも、県外の旅行代理店へ営業に出かけたり、ほかの職員と交代で作品鑑賞ツアーのガイドも担当しています。経歴を見てお分かりのように、私は美術の専門家ではありません。美術は畑違いではあるのですが、素人目線で分かるもの、面白いものを追いかけて行く。絵画の専門家や研究者は当館にはたくさんおりますから、ちょっとハズれた人間、いつまでたっても「どういうふうにしたら面白いのか」と考えて いるようなそんな職員が一人くらいいてもいいんじゃないかと今では思っています。

爆発的人気をよんだ「ダ・ヴィンチ・コードツアー」。着想のきっかけは、英字新聞の広告でした。

まだ日本語に翻訳されていなかった「ダ・ヴィンチコード」という小説に注目したのは、2004年のこと。入社の翌年です。英字新聞の広告を見て、ああ、今こういう本が売れているんだな、面白そうだな、と印象に残っていました。その後、アメリカからいらっしゃったお客さまを館内案内する機会があって、その方が偶然「ダ・ヴィンチ・コード」について口にされたんですよ。「『ダ・ヴィンチ・コード』っていう小説があるんだけど知ってる?面白いよ〜、絶対読んだほうがいいよ!」って。それで、取り寄せて読んでみて驚きました。当館に所蔵している作品があちこちに出てくるんです。付箋をつけながら読んでみたら、もうビッシリになるくらいでした。小説では、ダ・ヴィンチの絵を追いかけて主人公がフランスやイタリアの美術館を訪ね歩くんですが、当館なら原寸大の作品が一度に見える。しかも、ダ・ヴィンチの作品は同じフロアでまとめられていて、作品同士がすぐそばに飾られているんです。小説も面白いし、これはもう、鑑賞ツアーの企画を組もう。本はまもなく日本語に翻訳されるだろうし、絶対、映画にもなるに違いない。大きいことになるから、準備しておこう、と。
当時は企画担当ではなかったのですが、私の提案に上司が快く「やろう!」と言ってくださったのが大きかったですね。それで、5〜6人くらいのスタッフでチームを組み企画を練っていったんです。このチームが素晴らしかった。美術館を舞台にしたミステリー小説だから、非常階段を使ってお客さまを案内したらどうか?など、いろんなアイデアを出してくれて。とても一人ではできなかったことを、チームを組むことで乗り越えることが出来ました。

どうやったら面白くなるだろう?どうやったらお客さまが楽しめるだろうと考え続けています。

作品鑑賞ツアーの具体的なシナリオを考えていくときに、いちばん苦心したのが、「どういうふうにお客さまに案内したら喜んで頂けるだろう?」という点でした。
もちろん、美術館の作品鑑賞ツアーですから、絵画作品について解説していくことが中心になります。その作品解説と、本の中に出て来る物語のエピソードを、どういうふうに織り交ぜて行けば面白いのか。最終的には、1時間のツアーで絵画作品を10点前後紹介する内容となりました。物語の流れに添って、エピソードを順に追いかけて行く。まず原作ありきで「ダ・ヴィンチ・コード」という本がなければ成り立たないようなツアーですが、そのなかに出て来る絵についてはしっかり解説させていただくよう心がけました。シナリオを書いてくれた人をはじめ、職員それぞれがちゃんと作品を読んで考えてくれた結果、とても良いツアーになったと思います。

最初は参加者が1人だけ、というときもありました。

実際に「ダ・ヴィンチ・コードツアー」が始まったのは、角川書店から本が出版されたばかりの2004年5月頃。角川書店さんからツアーの許可をいただいて、始動しました。
でも最初の頃はあまり人が集まらなくて、お客さまがたった1人だけ、という日もありました。それでもとにかく1日でも多く練習したい、という思いでしたから、参加者が1人のときでもツアーを実施していました。最初のうちは「上手くいくだろうか・・・」と不安な気もちもあったのですが、本があれだけベストセラーになったおかげで、全国各地からお客さまが来て下さるようになり、単行本を持ちながらツアーに参加されるお客さまも徐々に増えてきました。映画が公開されると鑑賞ツアーに参加されるお客さまも爆発的に増えました。新聞や雑誌、テレビなどいろんな媒体にも取り上げていただき、当館でも毎日毎日「ダ・ヴィンチ・コードツアー」を実施するほどでした。

ようこそ 大塚国際美術館へ

デスクの前で。

「ダ・ヴィンチコード・ツアー」の参加者に
実際に配布したガイドシート。

ガイドシートの2枚目。
小説の謎の部分がわかりやすく解説されている。

ツアー参加者に絵の解説をしている浅井さん。


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