07 大塚国際美術館 学芸部次長兼企画・広報担当 浅井 美誉子さん

転職でたどりついた 大好きな仕事

大塚国際美術館 学芸部次長兼企画・広報担当
浅井智誉子(あさい ちよこ)さん

「ダ・ヴィンチ・コードツアー」「怖い絵ツアー」「テルマエ・ロマエツアー」など、斬新な企画で人気の作品鑑賞ツアーを
次々生み出している大塚国際美術館の浅井智誉子さん。
話題のマンガや映画の要素を柔軟に取り入れ、従来の美術館とはひと味もふた味も違う角度から、アートを楽しむ方法を多くの人に伝えている。
今回のソライロインタビューは、そんな名プランナーの素顔に迫ってみました。
大人気「怖い絵ツアー」誕生秘話。

お客さまに喜んでいただける絵画鑑賞ツアーを企画することは、やり甲斐のある嬉しい仕事なのですが、企画を面白く仕上げて行くことは意外に難しいです。例えば、レンブラントの映画が公開されるから、レンブラント特集のツアーを組んだからヒットするか?というと、そういうわけでもない。二番煎じになってしまうと、大きなPR効果を生み出すことができません。  なかなかヒットと呼べるような作品鑑賞ツアーのプランが立てられないなか、偶然が重なって誕生したのが中野京子さんの絵画エッセイ集『怖い絵』全3巻をベースにした「怖い絵ツアー」でした。このエッセイは、だれもが知っている西洋名画の数々のなかに驚くべき怨念や冷酷や非情や無惨が込められていることを知らしめる著作です。一読すれば、もう平然と絵の前を通り過ぎることができなくなること請け合いで、「怖いもの見たさ」の感情に強く訴える美術エッセイです。  「怖い絵ツアー」は、この『怖い絵』第3巻が上梓されたとき深夜番組で紹介されているのを見て思いついた企画です。番組を見て興味がわいたので本屋さんに並べられている同書をパラパラめくっていたら、版元の朝日出版の編集者が偶然にも知っている方でした。「ダ・ヴィンチ・コードツアー」を実施したときに、翻訳をされた越前敏弥さんから紹介された編集者で、連絡先がすぐ分かったんです。

「怖いものを見たい、という感情は、普遍的なものだと思うんです。

それで、連絡をして、「ぜひ中野先生の許可をいただいて鑑賞ツアーを実施したい」とお願いしたら、すぐ動いてくださった。中野先生も快く許可してくださったんです。中野先生は絵を確認する為に、当館へいらっしゃったこともあったそうで、あとからこの話をうかがって、なんだかご縁を感じました。  「怖い絵ツアー」を企画するにあたっては、確かに社内でも「本当に人が集まるだろうか?」という意見が出ました。絵画作品、芸術作品というのは美しいもの、癒されるものというイメージがあるものですが、ドロドロとした人間感情が埋め込まれた恐ろしい絵を、みんな見たがるか?という疑問です。  でも夏になると怪談話を聴きたくなるように、怖いものを見たい、という感情は簡単だし分かりやすい。普遍的なものではないかと思ったんです。中野先生の著作は本当に面白くて、「これはぜったいに当たる」と確信していました。2009年9月のシルバーウィークに初めて実施したのですが、ほぼウエブサイトでしか告知していないにもかかわらず、すぐ定員になってしまい手応えを感じました。初実施から3年経った今も「怖い絵ツアー」は人気の企画で、月5〜6回のペースで実施しています。

人気マンガ「テルマエ・ロマエ」が100倍楽しくなる鑑賞ツアー

私にとって、成功する企画というのは、偶然が重なって自然に発想されるもの。まるで「お告げ」のようにやってくる、という印象です。  今年当館でヒットした「テルマエ・ロマエツアー」は、同僚が読ませてくれたエッセイが「お告げ」(笑)でした。映画が大ヒットしたのでご存知の方も多いと思うのですが、「テルマエ・ロマエ」というのは、古代ローマの浴場設計技師が現代日本にタイムスリップする、という話です。 「この人のマンガ面白いから、ぜったい読んだ方がいいよ」と、「テルマエ・ロマエ」の作者である漫画家のヤマザキマリさんが書かれたエッセイを、隣の席の同僚が、わざわざページを開いてみせてくれたんです。それがキッカケで約30年ぶりにマンガを買ったんですが、このマンガのなかにポンペイ遺跡やヴェスヴィオ火山といった当館の古代展示コーナーで馴染みのある作品が次々に出てくるんです。付箋をつけながら読んでいき、「これはいける」と確信しました。そのアイデアにワクワクして、その日は興奮してなかなか寝付けなかったことを覚えています。  次の日会社に行って、「テルマエ・ロマエ」をベースにしながら古代の文化を紹介するギャラリートークをやりたい」と企画書を書いて上司に魅せました。すぐOKが出て、出版社、ヤマザキ先生、映画会社どこも快く許可を下さいました。  ただ、マンガのテーマのタイムスリップをうまく表現出来ないので悩んでいたら、「古代ローマ人の格好で案内しよう」ということになりました。それで、トガ、と呼ばれる白い服を手作りすることにしたんです。  「テルマエ・ロマエツアー」は約40分間に6〜7点をピックアップして紹介しています。なんとかうまくお客さまに「古代ローマはなんて面白い時代だろう!」と思って頂けないかと工夫しながら現在も続けています。

2012美術館のクリスマス。今年のツリーは「ミケランジェロ」がテーマです。

「怖い絵ツアー」や「テルマエ・ロマエツアー」ももちろん楽しんで頂きたいのですが、今の時期は美術館が開催するクリスマスイベントに来て頂きたいですね。  今年のクリスマスツリーのテーマは「ミケランジェロ」。  担当者が趣向を凝らして「ツリー」で「ミケランジェロ」を表現していますので、お楽しみ下さい。  今月18日から24日までは毎日14時からギャラリートークを開催し、「冬の名画」の代表的な作品をご案内しています。  ヨーロッパの絵画には、クリスマスの物語や美しい冬景色が描かれていますので、その代表的な作品をハイライトでご案内しています。  他にも、徳島少年少女合唱団によるクリスマスコンサート(12月23日)や、ゴスペルコンサート(12月24日)も開催します。美術館でサンタに出会ったら、「メリークリスマス!」と声をかけて下さいね。すてきなプレゼントをご用意しています。当日張り出される「サンタ出没予報」をチェックしてみて下さい。

「怖い絵ツアー」で紹介されるリベーラの作品。産後、ホルモンバランスが崩れたのか…見た目が男性になった母親。この絵には実際にモデルがいた。時の権力者にために贈られた作品。

 

古代展示フロアの入口では、映画「テルマエ・ロマエ」で主演した阿部寛さんの等身大ポスターが出迎えてくれる。

今年のテーマは「ミケランジェロ」

流れ星のようなLEDライトなど、工夫がいっぱい。

子どもといっしょに楽しめるツリーもある。