09 有限会社 栗尾商店<br>代表取締役 </span><br>(栗尾実太郎)さん

人と人の気もちをつなぐ、お菓子を目指して〜「東京駅ナカ 売れ筋ランキング3位獲得」「モンドセレクション6年連続金賞受賞」の秘密〜

有限会社 栗尾商店  代表取締役 
栗尾 実太郎(くりお みたろう)さん

世界の名品が揃う"お菓子のオリンピック"「モンドセレクション」で、6年連続金賞を受賞している「鳴門うず芋」。
最高品質賞を受賞し、そのレベルは国際的にも絶讃を受けている徳島発の銘菓だ。
製造・販売する栗尾商店は、昨年リニューアルした東京駅構内に高級感溢れるフラッグショップを開店させ、いまや日本が誇る銘菓店へと成長を続けている。
全国から有名店が集結する東京駅の「和スィーツ部門」でも、全店舗中、2012年の総合売上げ3位を獲得。その勢いは加速するばかりだ。
創業84年の歴史を守りながらも、時代に合わせたアイデア戦略を盛り込む3代目・栗尾実太郎さんに、
「東京駅という最高の舞台で始まった今後の戦略」と「お菓子づくりに賭ける想い」をインタビューしました。
第1章 「保守」と「革新」のはざまで
お菓子は、人と人の気持ちをつなぐもの。
有名店がひしめく、東京駅ナカで「売れ筋ランキング3位」を獲得したことは大きな励みになります。

 3月6日、日経新聞系列の業界紙で、東京駅ナカの売れ筋ランキングが発表されました。2012年に東京駅構内のショップで売れた商品の総合順位なのですが、私どもの「鳴門金時本舗 栗尾商店」が和スィーツ部門の総合3位を獲得しました。1位は日本橋錦豊琳、2位は銀座甘楽。東京のど真ん中の名を冠する有名店舗と並んでのランクインです。これは、私どもにとって、大きな励みになります。
 ランキング1位も2位も有名店舗ですが、じつは私どもが常に背中をみているお店は、創業500年の歴史を持つ東京・赤坂の「とらや」です。「とらや」は保守と革新が上手に融合されている和菓子屋さん。私も先代の遺産を守りながら事業の発展を考えているので、「とらや」の姿勢が、私にたくさんの刺激を与えてくれています。
 「とらや」の主力商品は羊羹ですが、みんな羊羹って、そんなにたくさん食べないでしょう?たくさん貰ったからといって、大量に食べられるものではない。けれど「とらや」の羊羹をもらうと、羊羹は食べなくても、気もちは伝わりますよね。「私のために、こんな良い品をくれるなんて。私のことを、いろいろ考えてくれたんだ」ってね。お菓子は、人と人との気持ちをつなぐもの。「とらや」は、その役割を見事に果たすお菓子を創っていると思います。

第2章 「うず芋」誕生物語
私たちは、徳島で初めて「おいものおかし」をつくったお店。輪切りにされた鳴門金時をコーティングする甘蜜は、80年前に祖父が考案したレシピそのものです。

 私たちの店は、徳島で初めて鳴門金時をつかったお菓子をつくった店です。1929年に創業し、今年で84年。もともと和菓子職人だった祖父が、縫製工場の前で「ふかし芋」を買う女工さんたちを見て「お芋のお菓子をつくろう」と思い立ったのが「うず芋」の始まりです。
 「うず芋」は自然の恵みを自然のままに保ちながら、つくられた菓子です。輪切りにされた鳴門金時をコーティングする甘蜜は、80年前に祖父が考案したレシピそのもの。祖父が手探りでつくりあげた秘伝の蜜を、今も継ぎ足しながら使用しています。

第3章 東京進出のキッカケ
親父が銀座の和菓子屋でお芋のお菓子を食べてみたら、「どう考えても、うちのほうが美味しかった」そうなんです。

 当初は近所に向けて販売しているだけでしたが、親父の代になって東京の三越デパートさんとの取引が始まりました。今から25年くらい前のことです。キッカケは、親父がたまたま東京で芋の和菓子を食べたことです。
 芋って、「芋ねえちゃん」とか「芋野郎」とか、あんまりカッコいいイメージがないでしょう?けれど、そんな「芋」を使った和菓子が、なんと東京のど真ん中、銀座の和菓子屋さんで売っていたんですね。それを見つけた親父が「いったいどれくらい美味しいんだろう」と買って食べてみたら、なんと同じ芋の菓子でも、断然うちの「うず芋」のほうが美味しかったそうなんです。それで、「これは、いける」と確信し、販路を拡大しようと考えたそうです。

第4章 三越デパートと取引開始

  25年前、三越デパートから電話がかかってきたんです。嬉しいんだけど、怖かった。乗り越えたおかげで「うず芋」は全国区のお菓子に成長しました。

 地元でも人気がある菓子だったので、販路の拡大に動いていると、ある日、東京の三越デパートから取引の電話がかかってきました。ぜひデパートで取扱いさせて欲しい、という内容でした。約30年前のことです。それはもう、驚きました。当時「三越」といえば日本一の百貨店でしたからねぇ。  ただ、お取引するのは嬉しいんだけれど、相手が大きいだけに、ここでミスしたら命取りになる怖さがありました。生産が間に合わず欠品してしまう、カビが生えたなど不良品だとクレームが入る等等。最大のチャンスだけれど、これで失敗したら店が潰れてしまう。それに、流通にのせるということは2週間3週間持たせないといけないわけですから、品質管理も必要になってきます。今まではご近所のお客様相手に職人のカンのようなものでやって来たけれど、このままではいけない。それで、徳島にある工業技術センターの先生に指導していただいて、添加物を使わなくても20日間品質保持できる製法を発案していただいたんです。そうすることで、安心して出荷できました。三越さんとの取引きを皮切りに、生協さん、関西の高級スーパーであるイカリヤさんにも納品するようになり、「うず芋」は全国区の菓子に成長しました。

第5章 モンドセレクション6年連続金賞受賞の秘密

  三越に納品し始めてから、ベルギー大使館からの直接ご注文いただく機会が増え、【モンドセレクション】に応募してみることにしたんです。

 モンドセレクションはベルギーで始まった"食品のオリンピック"です。ベルギーの王様が、自国の子ども達に安心・安全なものを食べさせたい、と願い始めたのだそうです。
 今でこそ「ビール」「美容」「タバコ」など100以上のカテゴリーがありますが、始めたキッカケは王様の子ども達を思う気持ちだったとか。その点で、私どもが作る自然そのままの素材を活かした「うず芋」はピッタリだったのではないでしょうか。
 三越に納品し始めてから、ベルギー大使館から直接ご注文をいただく機会が何度かありました。それで、応募してみたら、「金賞」という連絡を頂いた。現在まで6年連続で受賞させていただいております。 「うず芋」は素材そのものの味を大切にする商品ですから、うちは素材に徹底的にこだわっています。県内にある芋畑の一画から産地指定で買い上げて品質を確保し、年間200トンのお芋をお菓子にしています。添加物も使わない、自然の素材だけで作って、しかも美味しい。そういう点が、モンドセレクションの選考基準に合致していたのではないでしょうか。

第6章  製法へのこだわり
「給料100万円払っても、手で切れ」というのが先代からの遺言。お客さまは、「お菓子」といっしょに「物語」も召し上がるのだと思う。

 うちの工場では、一日に1トンから1.5トンくらいの鳴門金時を消費します。芋を切断するのは、すべて手作業。機械は使いません。毎日毎日、手が真っ赤に腫れるほど、芋を切っていくわけです。かなり忍耐のいる仕事ですし、我慢強い人ばかりではありませんから、なかには辛抱できない人もいます。私も、機械化を考えなかったわけではありません。
 けれども、この手作業を省いてはいけない、というのが先代からの教えです。極端な話ですが、
 「たとえ給料を100万円支払っても、手で切れ」
 と言われています。手作業による切断面には微妙な凹凸が生まれ、蜜のからみが良くなります。何より、お客様が「うず芋」を手にされた時の印象が違う。私は、お客様は「お菓子」と一緒に、その菓子が持つ「物語」まで召し上がるものだと思っています。手作業で切断していくことで、そこに人のぬくもりを感じる方もいるかもしれない。もちろん、まったく分からない、気にしない方もいるかもしれませんが、私は「手作業」を大切にしたい。手を腫らすまで働いてくれている約50名の従業員も大切にしたいと思っています。

第7章 東京進出は大きなチャレンジ

  売れ行きは、絶好調。従業員には、ぜひ自分の仕事に誇りをもって欲しいと思います。

 昨年は東京駅がリニューアルしてずいぶん話題になりました。私どもも縁あって東京駅のコンコースにお店を出店しておりますが、お芋の専門店が東京駅に店を出すのは初めてらしく、おかげさまでたいへん好調な売れ行きです。
 しかし、じつは店を出すにあたっては、さまざまな問題がありました。
 まず、私たちにとっては初めての実店舗となる、ということ。また、東京駅店だけのオリジナル商品を開発し販売することが出店条件だったことにも頭を悩ませました。駅が開いてから閉まるまで店をあけておくので、従業員も3交代制にするなど態勢を整えなくてはいけません。とにかくすべてが初めてのことなので、販売態勢から商品パッケージ、店舗デザインに至るまで考え抜きました。
 この出店は、親父が三越デパートさんと取引を決めたときと重なるような大きなチャレンジです。会社としても飛躍のチャンスとは思いますが、私としては、従業員に誇りを持ってもらいたい気もちもあり、出店を決めたという経緯もあります。自分たちがつくった芋のお菓子が、皇居の前で、売られているということ。天下の東京駅で、全国の人たちに商品を見てもらえるということ。モンドセレクションの金賞と同じで、自分たちは素晴らしい仕事をしているのだ、と実感してほしいという気もちがあります。
 開店したときはフジテレビの「めざましテレビ」などからも取材を受け話題になりました。
 2012年の年間売上げランキングでも、和スィーツ部門総合3位を獲得しましたが、そうした時期はやがて過ぎますし、東京店舗はこれからが本番だと思っています。韓国やシンガポール、台湾、ハワイなども視察し、今後は世界を視野に入れた販売網を考えているところです。

自然のものを自然のままに。
天然和スィーツ「鳴門うず芋」

製造工場は、四国の大自然のなかにある

見渡す限り緑の大地は、鳴門金時の畑

1日1トンの芋を切っていく。

人の手で切るからこそ、この断面が生まれる。
ぬくもりと味わいの菓子

香ばしい胡麻の香りも魅力のひとつ
夏季限定商品「鳴門炙り金時」

会長が手にしている「鳴門うず芋」は
1袋630円

会長みずから、秘伝の甘蜜をチェックしている。この粘りが旨さの秘密。

東京駅の店舗は、日本有数の照明デザイナーにプランニングしてもらった

東京駅でしか買えないオリジナル商品たち

徳島県西部にある本社にて。
皇室献上の書面、モンドセレクションの賞状や盾のほか、親交のあったよしこのの名手・お鯉さんの筆書きもあり、まるで美術ギャラリーのような応接室だ。

「東京で店舗を持つにあたっては、店舗設計やパッケージなどデザインを考え抜き、徹底的につくりこんでいきました」

秘伝の蜜を
じっくりと吸収させる